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大学院民訴レジュメ

講義概要 (5日め)第9講 第10講

(5日め)
第9講 当事者論と訴訟形態
講義の主題・ポイント:法人の内部紛争の当事者をどのように決定するか等を問うことによって、当事者論の応用的展開を考える。
キーワード:原告適格、法人、内部紛争、共同訴訟参加、株主総会
判例百選111

講義内容
9-1-1共同訴訟参加とは、参加の一種であるが、判決の効力が参加人に直截に及びうるような場合をいう。その要件は、①合一確定の必要性があること、②当事者適格があること、の二つである。 
9-1-2当事者適格とは(おさらい):当事者適格とは、訴訟の主体となる資格(特定の請求について当事者として訴訟を追行し、本案判決をもとめる資格)をいう。
9-1-3株主総会決議取消と対世効:合一確定の必要のある事件は必要的共同訴訟による。必要的共同訴訟には固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟がある。
    固有必要的共同訴訟:共有関係
    類似必要的共同訴訟:株主総会決議取消 

百選判例 111 共同訴訟参加と当事者適格 
Issue(事件の概要):株主XらはY会社を相手に取締役および監査役選任に関する決議をした株主総会の招集手続に瑕疵があったとして、その取消しを求めて提訴した。Y会社は請求棄却の申立をしたが、しかし、Xらの主張事実をすべて認めて争わない。当該総会で取締役(の1人)に選任されたZはY会社側に参加する旨の申立をした。Zはすでに取締役を辞任している。Zははじめ株主の側に参加すると主張したが、撤回し、共同訴訟参加(現行52条)による参加を主張した。第一審裁判所は参加の申立を却下した。判決はXの請求認容であった。
 Zのみ控訴。控訴理由は決議取消判決には対世効があるから、決議の対象となった当時の取締役や監査役も被告にしなければ、会社が馴れ合い訴訟するとき、これらの者の権利が不当に害される。会社と当該役員らを共同被告とすべき必要的共同訴訟であり、Zのした共同訴訟参加は認められるべきである。控訴棄却。
Rule(法):訴訟の目的が当事者の一方と第三者について合一に確定すべき場合には、第三者は、共同訴訟人として訴訟に参加できるとするのが、52条の共同訴訟参加の趣旨である。訴訟追行権は、当事者と参加人それぞれに独立に行使しうることが前提である。類似必要的共同訴訟である。参加人たる第三者は、判決の拡張を受け、かつ独立の当事者適格を有する者である。補助参加ではあるが、請求の主体となる者であるので、当事者の地位を持っている。
Analysis(分析):第三者が共同訴訟参加できるための要件は①合一確定の必要性があること、②当事者適格があること、の二つであり、本件では当事者適格が問題となる。Zは独立に被告たりうる資格があるか、という問題である。
 株主総会の決議取消に訴えは、法人が被告となることについては、多くの支持がある。法人の意思の決定を争う以上、その主体たる法人が被告たるべきだからである。第三者を当事者としてしまうと、判決の効力が法人に及ばないので、結局、第三者は当事者にも参加もできないということになる。取締役に選任されたものが、その利益を争えないのは矛盾するようであるが、選任によって取締役がうる利益は、あくまで選任の結果である以上、選任の有効・無効の争いにまで当事者となることはできないと解すべきであろう。
Conclusion(結論):判例に賛成




(5日目後半)
第10講 訴訟要件と訴えの利益
講義の主題・ポイント:訴訟要件の内容とその欠如の効果について理解を深める。訴訟要件、訴えと請求、訴訟手続の進行
キーワード:訴訟要件、訴えの利益、
判例百選 訴えの利益27,36

講義内容
10-1-1訴訟要件とは
    定義:本案判決をするための必要な要件のことをいう。
この要件が充足していないと訴えは却下される。要件は大きく三つに分類される。①裁判所に関するもの、②当事者に関するもの、③訴訟物にかんするもの
①はⅰ管轄およびⅱ裁判権(請求および当事者がわが国の裁判権に属するか?)  
     ②ⅰ当事者が実在すること、ⅱ当事者が当事者能力を有すること、ⅲ訴訟能力があるか、代理人がいる場合には代理権があること、ⅳ訴えの提起、訴状送達が有効なこと、ⅴ原告が訴訟費用の担保を提供しているか(76)またはその必要のないこと
     ③ⅰ同一事件について他に訴訟継続がないこと(142重複起訴の禁止)、ⅱ再訴の禁止に抵触しないこと、ⅲ併合の訴えまたは訴訟中の訴えについては、必要な要件を具備していること(38,143など)、ⅳ訴えの利益があること
10-1-2訴えの利益とは
   定義:民事裁判を利用するのに必然的に備わっていなければならない「正当な利益ないし必要性」のことをいう*。
おさらい 第6講
 訴訟要件とは:裁判所が本案判決をするための要件、訴えの利益が訴訟要件に入る理由は、訴えが訴訟になじむかどうかの判断は当事者でなく裁判所にまかされる。例:原告と被告が出会ったのは0月0日である」ことを確認せよ、には訴えの利益がない。
訴えの利益とは:争訟性と権利保護の利益(当事者適格)からなる。
 争訟性とは、①訴訟物が当事者間の具体的権利義務、法律関係とみなされること(住職などの宗教上の地位の確認はだめ)
       ②訴訟物についての攻撃防御方法が法令の適用に適するもの(宗教上の教義の解釈に関する争いはだめ)

* 訴えの利益はかって訴権の要件として訴権論の中で論じられてきた。訴権論では訴権は訴訟要件の重要な部分を占め、訴えの利益は本案の審理・判決をするための要件で、この存在があることが確認されれば、本案判決の要件が具備するという構成のなかで解されてきた。それゆえ、訴えの利益がないときは、却下判決をするのか請求棄却判決をするのかで、学説・判例などにおいて見解が対立していた。訴権について権利保護請求権説では、訴えの利益がなければ請求棄却判決をとるべきとされ、判例の中にもこれに従うものがあった。

具体的事案で考えてみよう。

百選判例 27 給付の訴え      
Issue(事件の概要):本来Xが建築した本件建物の所有権登記がY1、Y2、Y3と移転している場合において、Xがこれらの者を共同被告として、これらの登記の抹消を求めて訴えを提起した場合において、裁判所がY3については善意であったとして、94条2項の類推適用により、請求を棄却した。そこでY1およびY2はXによるY1Y2への登記抹消請求は無意味になったのだから実施上、訴えの利益を欠くとして上告した。
Rule(法):訴えの利益については、まず主体に関する利益に関するものと客体についての利益に別れ、さらに後者は、客観的一般的要件と個別の類型における要件に議論が分かれている。まず、客観的一般要件から見ていこう。
 ①請求が具体的な権利関係その他の法律関係の存否の主張であること、たんなる事実の存否の確認は対象にならないし、住職である地位の確認は法律関係以外の社会関係ゆえ、対象とならない(もっとも、住職の地位が権利義務に密接に関わるときは別)などなど、②起訴が禁止されていないこと、③当事者間に訴訟を利用しないという特約がないこと、④その他、起訴の障害となる事由(訴えが権利の濫用となる場合など)。
 個別類型における要件:現在の給付の訴え:訴えの利益が現存しなければならない。
Analysis(分析):問題は、給付判決を得ても、その給付の実現が法律上または事実上不可能あるいは著しく困難なとき、これを訴えの利益なしとして扱うのかそれとも、訴えの利益を肯認するのか、である。現実の利益を直ちに得ることはできなくとも、かかる不履行の責を判決は確認する意味(確認判決的意味合い)からこれを肯定的に捉えることには、それ以上の意味があるであろうか。まず、これを否定すると理由はともあれ、原告の権利が確認されない。次に、訴提起当時には原告の請求はどこまで認められるか分からないから、Y1,Y2に対する請求を最初に認定することも訴訟上は起こりうるし、和解や請求の認諾も当事者の処分権であることに鑑みると、周囲の状況の変化によって訴えの利益を左右することは適当ではない(法的安定に資するものではない)という判断は正しい。
Conclusion(結論):判決に賛成





百選判例 36 株主総会決議取消しの訴え   
Issue(事件の概要):株主総会決議による取消しの訴えが、起こされたが、控訴審において控訴審裁判所は、当該株主総会の当時選任された役員がすでに全員任期満了退任しているので、訴えの利益を認めず、訴えを却下したため、原告によって上告がなされた。
Rule(法):まず株主総会決議取消しの訴えが形成の訴えであることを確認しておく。形成の訴えは、その主体や要件が法律で個別的に定められているのが原則である。その場合、訴えの要件を満たしていれば問題ないのだが、訴訟前、または訴訟継続中に事情が変化して形成の必要がなくなるとき、これを訴えの利益なしとして扱うか否かが問題となる。①原告の実現しようとしていた実質的目的が、形成判決によってはもはや実現しないとき、特段の事情がないかぎり、訴えの利益は失われたとする。たとえばメーデーのためのデモの不許可に対する取消訴訟はメーデー(5月1日)経過とともに失われる、②原告の実質的目的が事実関係の変動によって実現してしまっても、訴えの利益は失われる。たとえば重婚を原因とする後婚の取消訴訟中に、後婚が離婚によって解消されてしまえば訴えの利益は失われる。
瑕疵有る決議により選任された役員がその在任中の行為について責任を追及することは出来ないという場合には、訴えの利益を否定すべきものとなる、との考え方がある一方、個々の不正に対する追求は可能だから遡及効があるからといって訴えの利益を否定すべきではない、との見解もある。さらに決議取消しの訴えは、会社運営の適法性を確保するものであり、実質的利益を判断の基準とすべきではない、との見解もある。
Analysis(分析):決議取消の形成訴訟の存在意義をどこに見出すか、の問題である。私見では、対世効を持つこうした訴訟では、裁判所の判断の社会的意義を重視すべきである。すなわち、実質的利益ではなく、決議の取消を認めるか否かで、会社運営の適法性が確定することに意義があるのだから、退任によってこれを否定すべきではない。
Conclusion(結論):裁判所の判断に反対


(5日め終了)
by civillawschool | 2005-12-10 10:00
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解答例

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