大学院民訴レジュメ

IRAC方式による判例百選 その2

民事訴訟法Ⅰ     
  学籍番号          氏名               

百選判例 27 給付の訴え      
Issue(事件の概要):本来Xが建築した本件建物の所有権登記がY1、Y2、Y3と移転している場合において、Xがこれらの者を共同被告として、これらの登記の抹消を求めて訴えを提起した場合において、裁判所がY3については善意であったとして、94条2項の類推適用により、請求を棄却した。そこでY1およびY2はXによるY1Y2への登記抹消請求は無意味になったのだから実施上、訴えの利益を欠くとして上告した。
Rule(法):訴えの利益については、まず主体に関する利益に関するものと客体についての利益に別れ、さらに後者は、客観的一般的要件と個別の類型における要件に議論が分かれている。まず、客観的一般要件から見ていこう。
 ①請求が具体的な権利関係その他の法律関係の存否の主張であること、たんなる事実の存否の確認は対象にならないし、住職である地位の確認は法律関係以外の社会関係ゆえ、対象とならない(もっとも、住職の地位が権利義務に密接に関わるときは別)などなど、②起訴が禁止されていないこと、③当事者間に訴訟を利用しないという特約がないこと、④その他、起訴の障害となる事由(訴えが権利の濫用となる場合など)。
 個別類型における要件:現在の給付の訴え:訴えの利益が現存しなければならない。
Analysis(分析):問題は、給付判決を得ても、その給付の実現が法律上または事実上不可能あるいは著しく困難なとき、これを訴えの利益なしとして扱うのかそれとも、訴えの利益を肯認するのか、である。現実の利益を直ちに得ることはできなくとも、かかる不履行の責を判決は確認する意味(確認判決的意味合い)からこれを肯定的に捉えることには、それ以上の意味があるであろうか。まず、これを否定すると理由はともあれ、原告の権利が確認されない。次に、訴提起当時には原告の請求はどこまで認められるか分からないから、Y1,Y2に対する請求を最初に認定することも訴訟上は起こりうるし、和解や請求の認諾も当事者の処分権であることに鑑みると、周囲の状況の変化によって訴えの利益を左右することは適当ではない(法的安定に資するものではない)という判断は正しい。
Conclusion(結論):判決に賛成






民事訴訟法Ⅰ     
  学籍番号          氏名               

百選判例 36 株主総会決議取消しの訴え   
Issue(事件の概要):株主総会決議による取消しの訴えが、起こされたが、控訴審において控訴審裁判所は、当該株主総会の当時選任された役員がすでに全員任期満了退任しているので、訴えの利益を認めず、訴えを却下したため、原告によって上告がなされた。
Rule(法):まず株主総会決議取消しの訴えが形成の訴えであることを確認しておく。形成の訴えは、その主体や要件が法律で個別的に定められているのが原則である。その場合、訴えの要件を満たしていれば問題ないのだが、訴訟前、または訴訟継続中に事情が変化して形成の必要がなくなるとき、これを訴えの利益なしとして扱うか否かが問題となる。①原告の実現しようとしていた実質的目的が、形成判決によってはもはや実現しないとき、特段の事情がないかぎり、訴えの利益は失われたとする。たとえばメーデーのためのデモの不許可に対する取消訴訟はメーデー(5月1日)経過とともに失われる、②原告の実質的目的が事実関係の変動によって実現してしまっても、訴えの利益は失われる。たとえば重婚を原因とする後婚の取消訴訟中に、後婚が離婚によって解消されてしまえば訴えの利益は失われる。
瑕疵有る決議により選任された役員がその在任中の行為について責任を追及することは出来ないという場合には、訴えの利益を否定すべきものとなる、との考え方がある一方、個々の不正に対する追求は可能だから遡及効があるからといって訴えの利益を否定すべきではない、との見解もある。さらに決議取消しの訴えは、会社運営の適法性を確保するものであり、実質的利益を判断の基準とすべきではない、との見解もある。
Analysis(分析):決議取消の形成訴訟の存在意義をどこに見出すか、の問題である。私見では、対世効を持つこうした訴訟では、裁判所の判断の社会的意義を重視すべきである。すなわち、実質的利益ではなく、決議の取消を認めるか否かで、会社運営の適法性が確定することに意義があるのだから、退任によってこれを否定すべきではない。
Conclusion(結論):裁判所の判断に反対






民事訴訟法Ⅰ     
  学籍番号          氏名               

百選判例 38 仲裁契約の成立   
Issue(事件の概要):建物更正共済契約中の仲裁に関する条項(仲裁の合意)がある場合の仲裁契約の成立の可否をめぐる争いである。条項は次のように記載されていた「建物更正共済契約につき紛争が生じた場合に当事者間の協議がととのわないときは双方から書面をもって選定した各1名づつの者らの決定するところに任せ、それらの者の間で意見が一致しないときは県共済農業組合連合会が設置する裁定委員会の裁定に任せる」。
被告はこの条項の存在を理由に訴えの却下を求めたのに対し、原告は、この条項の存在を①分からなかった(知らなかった?)、②被告は仲裁契約上の権利を放棄している(控訴審における主張)などとして争った。
Rule(法):裁判外紛争処理機構のことをADRと呼び、近年、商工業先進国で問題となっている訴訟の飛躍的増加に対する解決策として、多くの国が制度を研究し、立法し、ADR機構を創設したり、民間団体がこれを創設することを推奨したりする動きが盛んになっている。ADRは従来の範疇からすれば調停型と仲裁型に分けられる。前者は、原則として当事者の合意がなければ確定判決と同一の効力をもつことはないが、後者では、その手続きに付すことに合意すれば、そこで下される裁定案には従わなければならない(確定判決と同一の効力)というきわめて強力な権限が仲裁人に与えられている。(仲裁法も平成15年8月に公布され注目を集めているテーマである)
不起訴の合意や仲裁契約の合意は、訴えの利益を欠くものとして訴え却下の対象となると解するのが通説である。
 仲裁契約も契約であるから、錯誤無効、強迫などの対象となり、また、その仲裁制度そのものが一方に不当に不利であるならば公序良俗違反の対象となる。
Analysis(分析):建物建築や修復に関わる仲裁制度は古くから存在しているが、その存在について消費者が知っていることはあまりないようである。紛争の解決・判断に高度の専門知識が要求される領域では必ずしも専門分野に精通しているとはいえない裁判官よりも専門家による仲裁裁定の方が訴訟経済に資するといわれ推奨されてきた面がある。ところが専門分野に精通していない消費者にとっては、公平な判断をしてくれる仲裁人を選任することは至難の業であり、さらに専門家といっても同業者による裁定では、同業者をかばう方向でバイアスがかかるのではないかとの危惧も重なってこれに否定的な見解も多い。
 個別の契約ごとに、その契約の合意が真摯にんされたものか、当事者の一方に不利になっていないか厳しい目で判断していくしかないであろう。
Conclusion(結論):最高裁の判決にしぶしぶ賛成

民事訴訟法Ⅰ     
  学籍番号          氏名               
百選判例 46 一部請求における残部債権による相殺   
Issue(事件の概要):YはXに対してXの違法な仮処分申請によって、本件建物の持分を通常の価格より低い価格で売却することを余儀なくされたとの理由で、通常価格との差額2億5000万円余が損害であると主張し、その一部である4000万円を請求した。他方XはYに対してYが支払うべき相続税などを立て替えて支払ったとして、Yに対して不当利得を理由として、1296万円の返還を求める訴え(以下本件訴訟という)を提起した。本件訴訟において、不当利得返還義務の存否を争うとともに、予備的に別件でYがXに対して起こしている訴訟における損害額(2億5600万円)のうち4000万円の請求を越えた部分(2億2000万余)および上記違法仮処分に対する異議申立手続の弁護士費用、遅延損害金の合計を自動債権とする相殺を主張した。
 第一審は相殺の抗弁を認めて請求棄却、原審は相殺の抗弁を認めなかったためXが上告した。
Rule(法):すでに継続中の別訴において訴訟物となっている債権を自動債権として他の訴訟において相殺の抗弁をすることは許されない(最判判例:重複起訴の禁止:民訴142条)。その理由として①争点が同じでるから重複心理を余儀なくされ、②異なる判断が下される恐れがあるからである。逆に継続中の訴訟において相殺の抗弁をしている自動債権を別訴において訴求することができるかについては争いがある。
 次に一部請求が許されるか、という問題であるが、債権の一部であることを明示して請求することは、処分権主義の立場からは認められてよさそうである。しかし、訴訟物をこの一部として扱うと、残部請求については別訴で争いうるから、事実上の矛盾判決が生ずるおそれがあり、また訴訟経済上も重複審理という点で好ましくないとの批判がある。そこで債権全体を訴訟物とみるという見解も主張されている。判例は明示的に分断されていれば、それぞれが訴訟物であるとの立場をとっている。
Analysis(分析):本件ではすでに継続している訴訟では、債権の一部請求をしており、その残部を自動債権として相殺の抗弁をなした、というものであるから、従来の判例理論からは矛盾しないこととなる。しかし、実質上、重複審理をすることを認めることになるので、裁判所は、この問題を相殺の抗弁を主張する当事者に負担をかけるべきでない、との視点から救済している。いわく、「相殺の抗弁に関しては、訴えの提起とは異なり、相手方の提起を契機として防御の手段として提出されるものであり、・・・一個の債権の残部をもって他の債権との相殺を主張することは、債権の発生事由、一部請求がされるに至った経緯、その後の審理経過等にかんがみ、債権の分割行使による相殺の主張が訴訟上の権利の濫用に当たるなどの特段の事情の存在する場合を除いて、正当な防衛権の行使として許容されるものと解すべきである。」としている。
 相殺の抗弁を「防衛権の行使」として捉えるのは、相殺に担保的機能を認めているからであり、かかる機能を剥奪すべきでないとの配慮を、一部請求外の部分での債権について認めた判断は妥当なものといえよう。

Conclusion(結論):判決に賛成









民事訴訟法Ⅰ     
  学籍番号          氏名               

百選判例 48 郵便に付する送達     
Issue(事件の概要):被告Y1は信販会社であり、被告Y2は国である。Y1はXの妻がX名義のY1 発行のクレジットカードを利用したことによる貸金および立替金の残金などの支払いを求め、簡易裁判所に訴えを提起した(前訴)。受訴裁判所の書記官は、Xの住所地へ訴状を送達したが、X不在であった。そこで書記官はY1に対し、Xの就業場所等について紹介を行った。Y1はXが釧路市内のA社から長期出張中で(A社とXの間で郵便物の転送などの体制は整っていた)あること、訴え提起前にXとの交渉でXあての郵便物はA社に送付して欲しいとする要望を受けていたにもかかわらず、就業場所を不明と回答した。Y1の主張によれば就業場所とはXが現実に労働している場所のことをいうから、これは不明と回答したとしている。Y1は、Xは長期出張から帰ってくる日を特定、家族も住所地に居住している旨回答している。このためY2はXの住所宛に付郵便送達を実施、訴状などは受領されず返還された。X欠席のままY1請求認容判決がくだされ、判決正本はXの住所に送達、Xの妻が受領したがXに手渡さず、控訴がなされず確定した。
 XはY1およびY2に対して、Y1は受訴裁判所の照会に誤った回答をしたこと、Y2に対しては書記官が付郵便送達の要件および実施に過失があったとし、担当裁判官にもこれを看過した過失があったとして損害賠償を請求して訴えを提起した。
Rule(法):送達とは、当事者その他の利害関係人に対し、訴訟上の書類を法定の方式により送り届けることをいう。わが国では訴訟上の書類の送達は裁判所が職権でする方式が原則としてとられている。相手方がうけとらないこともあるので、送達は受け取らない場合でも送達の効力を生じさせることができる。送達に関する事務を取り扱うのは書記官であり、実施する機関は執行官または郵便集配人である。
Analysis(分析):被告が訴状やその他の重要な書類を受け取らないまま、訴訟が結審してしまうことは由々しい事態であり、そのために公正を期すために職権ですることが規定されているのである。しかし、だからといって極端に厳密な手続を課せば、送達は不可能になり裁判そのものが成り立たなくなることも考えられる。送達を受ける者の手続保証と、裁判そのものを保障するという要請の間で均衡がとられなければならない。原告が故意に被告の住所を不明とすれば、追完が認められ(97)また判決そのものが再審事由になるとの説もあることに鑑みれば、裁判所書記官の過失を認めてもよい、と考える。
Conclusion(結論):裁判所は書記官は一般的手続にのっとってしたから過失はないとし、また前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償は、「当事者一方の行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別な事情」にあたらないとした判断は誤りある。
[PR]
by civillawschool | 2005-12-05 00:39
<< IRAC方式による判例百選 その3 IRAC方式による判例百選 そ... >>



解答例