大学院民訴レジュメ

残りのレジュメ 7’

補足です。
拙著『疫学的因果関係の研究』信山社2004第4編「鑑定をめぐる問題」参照:米国では鑑定をいかに裁判所が評価するかという問題について 、1993年のDaubert v. .MERRELL DOW PHARMACEUTIC判決(以下Daubert判決と呼ぶ)がそれまでの基準をほぼ否定するかたちで新たな基準を示している 。本稿では、このBendedectinに関連する一連の判決をとりあげることで鑑定の評価をめぐる米国での議論の紹介としたいと考えている。
Bendectineをめぐる事件はこの他にも多いが、原告が勝訴した場合もあれば(たとえば1989年のMr.&Mrs.Floyd BROCK v. Merrell Dow )製薬会社が勝訴したものもある(たとえばCarita RICHARDSON, Infant, by S. & E. RICHARDSON,Guardians,et al., v. RICHARDSON-MERRELL,INC.,
(1988) やSekou EARLY Y. et al., v. RICHARDSON-MERRELL(1990) )などがある。
米国では、このBenedectin事件以外にもサリドマイド、枯葉剤(Agent Orange)やアスベスト、DESなど大型の訴訟が因果関係をめぐって厳しく争われ 、そうしてその中心的争点がまさに疫学的因果関係と、それを根拠づける鑑定に関する問題であったといっても間違いではないであろう。その中でBendectinをめぐる判決は現在進行中の他の訴訟と比べ比較的コンパクトであるのに、争点が因果関係と鑑定に集中しており、判決も一転二転している点で興味深いものがある。サリドマイドやDESは因果関係が明瞭で、因果関係の存否をめぐる議論があまりなく、枯葉剤は和解で終了している点、また日本でいうところの行政訴訟であり、論点がそちらにずれてしまうものも多い。アスベストは現在進行中のものもあるが、企業の中には破産したものも多く、破産法廷という特殊な場での議論が問題を複雑にしている。
     
事件はBendectineという妊娠中の“つわり”を緩和させる薬で1956年にはFDAから認可を受けている。この薬はanti-histamine,  anti-spasmodic, vitamineB-6 各10mgからなっており、すでに販売中止されている。1977年、anti-spasomodicは成分から除かれたが、処方箋による販売は世界各国の薬局で行われ続けた。およそ2000万のアメリカ女性、世界全体では3300万人の女性が服用されたと推定されている。70年代には米国の妊婦の3分の2がこの薬を服用したものと推測されている。妊婦の約85%がつわりを訴えるといわれており、この薬がいかに普及していたかが伺われよう。また、この薬ほど調査され研究された薬はないといわれている。35以上の疫学研究が世界中で行われ、その中の初期のものには、いくつか統計上特定の問題を胎児に与えるとするものがあった。声帯変形、心臓欠陥などである。しかし、いずれもその後のより大規模な調査では、否定されている。1983年、製薬会社はこの薬の製造を中止している。製造中止の理由は保険費用の増加とされている 。
米国では3-5%の出産において新生児に異常(頭蓋骨や頭部の変形異常、口腔不整、視覚ないし聴覚の異常、脊椎の異常など)が観察されているという 。
こうした新生児の異常は、ダウン症やチューナー症候群(Turner Syndrome)のように遺伝的要因(およそ4000ほどの遺伝上の影響が確認されている。よく知られたもの色盲がある)によるものもあれば、妊娠中母体がウイルスに感染したためであったり、そのほか母体からの感染によるおものもある。これらのうち35%が環境によるものと推測されている。化学物質か放射能、アルコール、あるいは合法、違法の薬品などの影響である。裁判所に提出されたコホート研究ではBendectineの相対危険度はおおよそ1.1を示していた。
それでもBendectineが胎児にさまざまな障害を生じさせるといわれており、訴えた当事者らも、薬によって奇形が生じたとして訴えたものである。もし、この訴えが認められると全米で多くの被害者が賠償を請求することが予測される大型訴訟のひとつであった。ところが統計上、当該薬品を服用した母親から生まれた子と、そうでない子の集合の間で奇形が多発するとするような有為な差(5%)は発見されなかった。薬と奇形についてはその他に試験管(in vitroないしtest tube)、および動物実験(live)では、薬と奇形との間に因果関係があるとする原告側の鑑定結果が出されていた 。そもそもanti-hystaminが奇形の原因となることはすでに知られた事実である 。しかし、統計調査の有効性がこの事件では勝敗を決したようである。相対的危険度は2を超えていなければならない、というわけである 。
サリドマイドもしかし疫学調査では危険は発見されていなかったという事実 があり、本判決には批判も多い。
争点はそれまでのFrye v..United States判決 が示してきた鑑定を証拠として許容することの基準を連邦証拠規則制定後にあっても採用するか否かにあった。Daubert判決はFrye判決が示した基準を事実上否定し新たな基準を示した。ポイントは(①)「(かかる科学鑑定が科学における専門家の間で)一般的に許容されていること」というFrye判決の示した要件は連邦証拠規則の下における科学鑑定許容の必要的前提条件ではない、(②)鑑定人が証言することについて、すなわち、確かな根拠を有し、問題の解決に役立つものであることの判定は連邦規則によって裁判官に課せられている(Frye判決はこれを否定)、の二点にある 。
連邦裁判所は「事実審裁判官は、許容性の認められた科学的証言または証拠の全てに、関連性(relevant)のみならず信頼性(reliable)があることも保証しなければならない」 とし、連邦証拠規則702条に関連して事実審裁判官は「専門家証言が、(1)科学的知識(scientific knowledge)であり、かつ(2)事実認定が争われている事実を理解または判断するに役立つかどうかを判断しなければならない。この審査は、証言の基礎にある理論および方法が、科学的に有効(valid)かどうか、および、その理論または方法が争われている事実に適合しうるかどうかに関する予備的評価を伴う」とした。
Daubert事件で興味深いのは、この専門家証言を予備的評価するという点 にある。事件を受領(Admission)するか否かを、この専門家証言によって決定しようというのであるから、その門戸を極端に狭くすることにためらいがあったとしてもなんら不思議はないであろう 。Weinstein判事が枯葉剤訴訟(Agent Orange)において因果関係を肯定する鑑定をすべて排除してしまい、結局、被告である国の鑑定人の因果関係を否定する見解を採用することで事実上原告敗訴が決まってしまったという事情がある。これが激しい批判にあったことはいうまでもなく、この事件がDaubert判決の背景にはある 。(もっとも、その後、判決の行き過ぎを考慮してネオfryeルールといったものを提唱するむきもある。詳しくは後述参照 )
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by civillawschool | 2006-07-06 12:17
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