大学院民訴レジュメ

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既判力の時的限界 unit.16

Q1
1)既判力とは、訴訟物に関する確定判決の判断に対して生ずる通用力ないし拘束力のことをいう(伊藤470)既判力の客観的範囲は、判決主文に包含するもの(114条)と規定され、具体的には訴訟物に対する判断に限定される。主観的範囲は、当事者および口頭弁論終結後の目的物の承継人に限られる(伊藤497頁)。既判力の双面性とは、既判力は勝訴当事者に対して有利に働くばかりでなく、不利にも働く(それゆえ、敗訴当事者にも同様、不利にも有利にも働く)ことをいう。たとえば、建物について前訴原告の所有権を確認する判決が確定した後に、土地所有者たる前訴被告が建物収去土地明渡請求の後訴を提起したときに、被告たる前訴原告は、前訴の口頭弁論終結前の事由にもとづいて自己が建物所有者たることを否認することはできない(伊藤475)。
2)既判力の時的限界とは、訴訟物たる権利関係の存否について受訴裁判所は、弁論主義の原則によって当事者が提出した事実と証拠に基づいて判断を行うが、このための資料を当事者が提出できる最終期日が、その判断の正当性を担保する最終期日となる。これが、既判力の時的限界である。民亊執行法35条2項は、これを受けて、請求異議の訴えを基準時以降に生じたものに限定している。すなわち、基準時前のことについては、確定判決が既判力を有するから、これを争いえないということが請求異議の訴えの、いわば基準時となっているのである。基準時については、民事訴訟法に規定はなく(歴史的経緯によってそうなっている)、それゆえ、根拠条文も民亊執行法に求められることとなった。
3)第1訴訟は、控訴棄却の判決により、Yの請求(本件賃貸借の期間満了を理由とする、建物集去土地明渡と収去明渡までの地代相当額の損害金)認容で確定している。第2訴訟では、Yは地代相当損害金を226万円に引き上げて請求、裁判所はこれを全部認容する判決を出し、確定している。第1訴訟において地代相当額を27万6000円とした判断は第1訴訟の最終の口頭弁論までの期間に関するもので、その後の地価の変動については、後訴裁判所を拘束しないから、第2訴訟において認容された新たな地代相当額は第1訴訟の判決の基準時以降についてのみ有効となる。
X1X2による請求異議の訴えは、第2訴訟の強制執行に対するものであるから、この判決の基準時以降に生じた事項をもってしてしか、強制執行を阻止しえない。それゆえ、建物買取請求権の行使は基準時以降であるから、その後の地代相当額の損害金の支払い義務はなくなるが、それ以前の部分については、第1訴訟の基準時以前の部分については、第1訴訟の示した地代が、第2訴訟の基準時以降、建物買取請求権行使までの部分については第訴訟判決が示した(ちなみに第1訴訟の判決が示した地代相当額については、第2訴訟判決でも示されているとの前提である)額をもってして地代相当額損害金ということになる。結局X1X2が争いうるのは、建物買取請求権行使をもって、その日以降の地代相当損害金の支払い義務が消滅しているという主張である。
最後に、建物買取請求権の行使は、既判力により遮断されないか、という議論があるが、建物買取請求権は、裁判において主要な争点ともなっておらず、その行使をもはや期待できないとの信義則が働く場合でなければ、遮断されないとのみ述べておく。
4)いわゆる遮断効(失権効)の問題である。遮断効は、既判力の一作用とされながら、既判力のおよぶ範囲は主文に包含するものと限定されているため(114条)、前訴において提出された攻撃防御方法および提出されなかった攻撃防御方法さえも、後訴において、提出を許さないとする法理であると説明することとの整合性が問題となる。本来の既判力は訴訟物について生ずるから、審判の対象とすらならなかった攻撃防御方法が後訴において提出しえないとする根拠は既判力そのものからは演繹できない。
既判力は、訴訟物についての前訴判決の判断の通用力である。そうすると、たとえば解除の主張が訴訟物を構成していなければ既判力の射程には入らず、また、解除についてYが争っていなかったとき、争点効の射程にも入らないが、Yが後訴で解除の主張をすることは、解除については争わないとの相手方の期待を裏切る(決着期待型争点)ことになり、信義則違反になるのではないか、という問題として論じることができる(unit15 Q2)。
前訴において提出が可能であった取消権の、基準時後における行使について、通説判例はこれを許さないとするが、反対する説も有力である。
そこで解除権、取消権、相殺権、建物買取請求権などについて、これらを形成権行使の問題として捉えながら、それぞれの形成権の実体法的性質や手続の経緯を勘案して、基準時前の形成権行使が期待される場合であったか否かで、遮断効が働くか否かを決していこうとする主張が有力になっている(伊藤489-480頁)。形成権は、その存在によってではなく、その行使によって初めて実体的な法律関係の変動を生じるから、法律行為に付着した(それゆえ、通常は前訴において行使可能な)ものか否かについては、判断が分かれる。
通説は、たとえば取消権は法律行為に内在的に付着する瑕疵だから、かかる権利は一般的に前訴において主張しなければ失権(遮断)すると説く。ただし、詐欺や強迫の事実が口頭弁論終結時まで継続し、取消しの意思表示を期待しえない場合には失権しないと主張する。再審の訴えが338条1項5号で「刑事上罰すべき他人の行為・・・」という条文も根拠にされる。また、建物買取請求権は、収居明渡請求権に内在(付着)する権利ではなく、それゆえ独立に、前訴判決確定後に行使することを認められると説く。
5)相殺権の行使については学説に争いがある。判例は相殺が効力を生じるのは相殺適状のときではなく、相殺の意思表示をしたときであるから、確定判決後、基準時以前より相殺適状にあった相殺権の行使は認められる。通説は①相殺権の行使が相殺権者の自由意思に委ねられており、②確定された受動債権に付着する瑕疵ではない、との理由で判例を支持している(伊藤483-484頁)それゆえ、本件では、いずれの相殺権の行使も認められるべきである。
6)建物買取請求権の行使は許されるべきである。その根拠として、遮断効が働くのは、攻撃防御方法が法律関係に付着していて、それを前訴において行使しないことが、相手方の期待権を構成するような場合でなければならない。形成権一般について、その権利の行使は、権利者にまったく委ねられているということはなく(たとえば取消権や解除権にあっては、多くの場合、前訴審議中に行使することが期待される)、この期待は、その権利が法律関係の瑕疵として付着したものか否かをひとつの基準として考えることができる。
そうすると、建物買取請求権や相殺権の行使は、①権利として他の法律関係に付着するものでなく、②そもそも独立の権利として行使することが十分に考えられるものであるから、相手方の期待権を侵害するものでもない。

Q2
1)判決の効力はその名宛人(および口頭弁論終結後の目的物の譲受人:115条1項3号、これらの者のために目的物を所持する者:4号)にしか及ばない。4号の所持者はもっぱら本人のためにする意思のみをもって目的物の所持をなす者に限定されるから、賃借人や質権者は4号の所持者に該当しないとされる(伊藤514頁)。それゆえ、賃借人に第1訴訟の判決の効力は及ばず、強制執行をこれらのものに対してなす(建物明渡の執行)ことはできないからである。
2)請求異議の訴えにおける審判の対象は、建物収去土地明渡請求権と地代相当金の支払い(訴訟物)であり、請求原因は、口頭弁論終結後の建物買取請求権の行使による建物収去土地明渡義務の消滅と、それに伴う地代相当金の支払い義務の消滅である。
3)建物買取請求権が行使されると、行使の時点より建物の所有権は土地賃貸人に移るから(資料11,354頁)、土地上の建物の明渡義務は消滅する。また、これに伴い地代相当額の損害賠償債務も発生しなくなる。しかし、建物の引渡しまでもが、建物の所有権の移転に伴って消滅するわけではないから、建物引渡し請求権が建物収去土地明渡請求権の消滅によって顕在化すると考えるべきであろう(資料10)。それゆえ、この残った権利の範囲内で判決は効力を維持していると見るべきである。それゆえ裁判所は建物引渡し請求権の範囲内での強制執行を許可すべきものと考える。

Q3
1)@建物買取請求権行使の意思表示の撤回が認められるか、その効果は、訴訟上での攻撃防御方法の提出の撤回に限られ、訴訟外においては、建物買取請求権の行使の効果に影響を与えないと解すべきか否かという問題である。訴訟行為を当事者が撤回することに制限はなく(伊藤281頁)、その撤回により訴訟外での実体的効果も発生しないと考えるべきか否かが問題となる。当事者の意思からすれば、訴訟上で撤回した意思表示が訴訟外では撤回が認められないというのは、訴訟上において審議している法律関係をいたずらに混乱させることになり、認めるべきではないであろう。
@撤回ではなく裁判所が当事者の形成権行使を時機に遅れた攻撃防御方法の提出であるとして、却下したときには、当事者の意思としてこれを訴訟外でも認めないとする理由はないから、訴訟外における権利は失われないと解するべきである。そうすると、建物買取請求権の行使をその後において認めることになるが、かかる権利の行使は、そもそも判決確定後に始めて行使した場合にも認められているのだから問題はない。
@これに対して売買代金請求訴訟における詐欺による取消権行使の抗弁は、取消権が売買における意思表示に付着したものであるから、訴訟上時機に遅れた攻撃防御方法として却下された場合には、訴訟外にあってもその行使は認められないと考えるべきである。

2)建物買取請求権は裁判上行使しなければならない権利でないから、裁判外において行使することを妨げるものではない。問題は権利者が権利行使の事実を訴訟において主張しながら、後にこれを撤回することができるか、という点にある。そもそも例外はあるものの攻撃防御方法の提出の撤回に制限はないから、これを認めてもよさそうである。しかし、撤回を認めると訴訟上では所有者は土地賃貸人、訴訟外では土地所有者という錯綜した関係が生ずる。そこで、訴訟外ですでに行使した権利は、裁判に顕れた事実として考慮すべきであり、撤回を事実上認めないという構成を考えるべきであろう。そうすることで、相手方に対する不意打ちも防止される。また、撤回を認めないことで、撤回を望む者が不利益を被ることもない。裁判外で建物買取請求権の行使があったとき、これを原告が考慮して建物収去土地明渡に訴えを変更したとき、建物買取請求権行使の事実は被告に一方的に有利に働く事実でないという双面性を考えるとき、かかる事実を原告に主張させ、あるいは釈明することで、かかる事実を訴訟においても斟酌すべきである。   
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by civillawschool | 2006-07-06 12:18
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