大学院民訴レジュメ

残りのレジュメ 4

立証活動 unit.12
Q1
1)@Xは①Y社のB社に対する売却価格が適正なものでなかったこと、適正価格との差額を具体的に証明しなければならず、②そのために適正価格がいくらであったかについてまで、証明しなければならない。もっとも適正価格を正確に割り出すことは不可能であるとの見解もあり、その場合は、具体的損害額については、民訴法248条によることになる(後で検述)
 @Yには、いわゆる証明責任はなく、それゆえ相手方主張に対して反証活動をそれば十分であると一般的には解されてきたが、協働主義的訴訟観からは、真摯に反証活動、資料提供義務などがあると主張されるようになってきている。
2)@提訴前の照会、提訴前の証拠収集(文書の送付嘱託、調査嘱託、専門的な知識に基づく意見の陳述、執行官による現況調査)提訴後の照会・証拠収集(文書の送付嘱託、調査嘱託、文書提出命令)あるいは求問権を使い裁判所に釈明処分してもらう方法がある。
 当事者照会は、裁判所は関与せず、直接に当事者間で照会および回答がなされるところに特色がある。相手方当事者に対する強制力はないが、適法な照会に回答する義務はあると解され(双書:新版275頁)、正当な理由がないのに回答しなかったり、虚偽の回答をすれば、そのことにより増加した訴訟費用の負担を命ぜられたり(63条)、事実認定にあたってそのことが弁論の全趣旨(247条)として考慮されたり、弁護士である訴訟代理人がこのような態度をとれば弁護士倫理違反に問われる可能性がある(弁護士職務基本規定5・74・76)。
 専門的な知識に基づく意見の陳述は、建築瑕疵が争点となる場合にその瑕疵の補修費用についてあらかじめ建築士に専門的な知見に基づいて見積もりを嘱託すること、執行官による現況調査は、境界紛争について執行官によって当該境界の現況を調査しておくことの例などが想定される。
 文書提出命令は、第三者に対しても発することが出来るが、そのためには文書の所持者に文書提出義務(220条)が認められる場合でなければなあらない。一般に稟議書などのように自己使用文書は提出義務がないとされている(最決平成11.11.12百選79)
 @本件では、輸入穀物を他社よりも安価に売却して会社に損害を与えたか否かが争われているわけであるから、A会社がB会社に対して穀物の売価の決定のために社内手続のために作成された稟議書がまず問題となる。文書提出命令はA社によって自己使用文書であるとして提出を拒まれる可能性がある。当時の穀物の流通価格に関する調査嘱託については、次の問に譲る。
3)嘱託調査は裁判所が諸団体に嘱託するものであるから、その回答書は当事者の援用をまたずに証拠とすることができるが、証拠である以上、当然当事者に意見陳述の機会を与えなければならないから、回答書を当事者に示して意見陳述の機会を与えることとなる。
4)当事者が文書送付の嘱託の申立てを行った場合、裁判所に送付されてきた文書を当事者(申立人)が閲覧、これを証拠(書証)として提出することが予定されているものであるから、基本的には当然、閲覧謄写することができるものと解される。ただし、送付元が送付が不相当であるとか、その文書の一部の開示を拒む意思表示をしている場合には、裁判所は、この意思に反してまで閲覧・謄写を申立人に認めることはできないと解すべきである。

Q2
1)220条は1号から4号までに文書提出拒否できない事由を列挙しているが、4号は、1号から3号までに該当しない場合でも、イからホのいずれにも該当しなければ、文書提出を拒否できないと規定している。1号から3号は拒否事由できない一般的要件を列挙しているのに対し、4号は1~3号に該当しなくとも提出義務を免除されないと規定し、免除される場合を列挙している。結局、4号によると一般的に文書は1号―3号の提出義務事由に当たらなくとも、イからホの拒否事由に当たらない限り提出義務を負うという構成をとっていることになる。この構成をどのように考えるべきであろうか。
かかる構成が採用された歴史的経緯は、まず、1号から3号が旧法から存続し、新法により4号が追加され、一般提出義務の規定が加わったというものである。それゆえ、旧法時代は、3号後段の法律関係文書の解釈を拡張して提出義務の拡大を図っていたものが、その必要性(拡大解釈の必要性)はなくなったといえよう。
2)稟議書は自己利用文書か否かという問題である。最高裁は平成11.1.12の決定で稟議書を220条4号ニの自己利益文書と認定している。その理由として、稟議書が銀行が融資を行うか否かあの判断をするための材料(担保や利益の見込みなど)や担当者の意見を記したのが稟議書であるが、これを開示するとなると内部で忌憚のない意見交換ができなくなり支障をきたす。また、そもそも融資の決定までの過程でこうした自由な意見交換の場は必要であり、かつまたそのための文書は自己利用文書であり、提出義務を免れるというものであった。
3)稟議書であっても、特段の事由があるときは、自己利用文書には該当せず、文書提出義務を認めてよいのではないか、という問題である。
本件は、①株主代表訴訟であり、原告である株主は内部者で、いわば文書所持者と同視すべき者が、そもそも稟議書という、②内部の事務処理経過と責任の所在を明らかにするために作られた文書の提出を求めているのであるから、提出を拒む理由はない、との主張が成立する。
4)@文書提出命令の申立ては、文書の表示、文書の趣旨、文書の所持者、証明すべき事実、文書提出義務の原因を明らかにしてしなければならない(221条)が、文書の表示において、「A株式会社のB株式会社に対する売価の決定についての稟議書および関係書類一切」としたとき、稟議書以外の文書が果たして適正に表示されているか否かという問題である。監査調書について、最高裁は平成13.2.22決定において、監査調書として当該監査に係る記録または資料を整理し、これをその事務所に備え置くべきものと財務諸表等の監査証明に関する省令が定めていることを根拠に、かかる文書の表示(特定の会計監査に関する監査調書)を適法とした。売価の決定について、稟議書以外のいかなるものが、この関係書類に該当するか、会計監査の場合のように明確なものはない以上、稟議書以外の一切の書類との記載は不明確とのそしりは免れないかもしれない。また、内部文書であっても、提出義務があるとは認められない部分があることも、かかる記載による提出義務の認容を消極的にしている。
しかし、①社内文書の提出にあたって、それがいわば内部者である株主によるものであることからすると、社内文書であっても、提出の範囲は広く解されるべきこと、②しかしながら、社内文書はその性質上、日常的に社内にあって文書を作成する者のみしか知ることのできない文書もあることからすると、これを狭く解釈することは、本来文書提出命令が意図したところの、証拠の収集の趣旨に反することにもなりかねない。
結局、稟議書以外の文書については、売価の決定過程で関与が明らかなもの、稟議書添付書類など特定の範囲に属するものは、すべて提出の義務があると解すべきであろう。
@仮に「稟議書以外の一切の書類」では、不適当ということになるならば、申立人は、222条を用いて文書の所持者がその申立てに係る文書を「識別」することのできる事項を明らかにすればよい。223条①もそのように規定している。
@文書の中に「提出義務があるとは認められない部分」があるときは、裁判所はこれを墨塗りなどによって削除して提出するように命ずることに問題はない。
5)文書提出命令の申立てに基づいて裁判所が文書の提出を命ずる決定をしたとき、この決定に対して文書の所持人は抗告できるか、という問題である。改正法は223条①7号で決定に対しては即時抗告できると規定している。

Q3
1)立証負担の軽減については、証拠偏在型訴訟にあって、従来の証明責任の分担では、一方当事者にとって証明の負担が重い、という視点から発生した。情報偏在型訴訟とは、公害、薬害、医療過誤などである。
2)立証負担軽減の法理としては、過失の推認、一応の過失、証明責任の転換などがある。また、最近は証明度を軽減すべきであるとの理論も登場している。
3)248条については、
 以下に掲げる藤原論文はこの問題に対して新たな視座から証明責任と評価責任の問題を再考させるものであるので紹介しておこう。
 実は私、以前に大阪地裁の、主として交通事故損害賠償事件を専門的に取り扱う部で三年間勤務したことがありまして、来る日も来る日も損害とその額の認定・算定に頭を悩ましたことがございました。ところが、たまたま、この学会での報告をお引き受け致しました直後の昨年12月8日に、鶴岡灯油事件の最高裁判決が出まして新聞紙などにも大きく報道されました。この判決におきまして、最高裁は、ご承知のとおり、原告らの被った損害とその額の証明が尽くされていないという理由で、これを一部認容した二審判決を破棄しまして、原告らの請求を棄却する自判を致したわけでございます。

 われわれは事実が明らかになれば、その法的評価をするのは裁判所の責務と考えてきた。もちろん法的評価を裁判所がする過程で当事者はそれぞれの主張を展開することで、いわゆる主張責任を果たすことで裁判所にある程度の免罪符を与えていたということもできよう。損害は証明できても損害額の証明は困難といったとき、損害額も事実の問題とすることで事実に対する評価もまた、それが純粋に法理論構成上の問題――解釈の問題と表現すべきか――でないかぎり当事者に課せられた証明責任の問題でよしとしてきた。こうした構成に対して疑問が呈されたのは鶴岡灯油事件 が最初である 。

 藤本元裁判官はこの鶴岡灯油事件最高裁において割合的認定は当事者の証明活動によってなされるものであって、裁判官の責務ではない、と読める判決に衝撃をうけたということである。なぜなら割合的認定も損害額の認定の問題であるならば、損害額もまた事実認定の問題であると最高裁が判決で示したことになるからである。最高裁の判決によれば、割合的認定問題は、損害額の認定問題であり、それは損害額という事実証明の問題ということになるからである。それゆえ事実を証明できない者、その事実を証明する責務を負っている者がそれに成功しなければ不利益を受ける(事実がないと認定される)こともやむをえないと扱う、その扱いに衝撃を受けたということであろう。
 交通事故などにおいて被害者の過失や被害者の素因の事実もまた分かっている場合であっても、それをどの割合で過失相殺するか、日々悩んできたものが、それは証明責任ですませてしまえばよい、と言われてもそう簡単に納得できるものではない、と考えるのも無理からぬことである。
 そこで提唱されたのがドイツ民事訴訟法(ZPO)287条の規定にある考え方である。同条は次のように規定している。①損害が発生したかどうか、または、損害ないし賠償すべき利益の額がいくらかについて当事者間に争いのあるときは、裁判所は、一切の事情を斟酌し、自由な心証によって、その点について決定する。その点について証拠調をすべきかどうか、また、どの程度すべきか、さらに職権で鑑定を命ずべきかどうかについては、裁判所の裁量にゆだねられている。・・
 この規定について藤原元判事は、証明度の低減を含むものとの説を紹介しわが国においても証明度の低減が可能であると主張する。
 その根拠として①この規定が立法当時より損害額の立証が困難なことが意識されており、②実務でも慰謝料や逸失利益の定額化・基準化が進んでいるが、これも実は証明が困難なことを回避するための擬制であり、積極損害についても基準化が進んでいること、③裁量的算定をするといっても当事者に十分な主張立証の機会が与えられた上での裁量であるからでたらめなものとなる恐れはない、というものである 。
 また傍論ではあるが鶴岡灯油事件をZPO287条の下で損害額を考えると妥当な判決が得られると主張している 。
 そうして最後に新民事訴訟法248条がこのZPO287条の趣旨を汲んだ規定と解する余地があること、すなわち多数説はこれを証明責任の軽減を図った規定と解するのに対して、損害額の確定を裁判官の裁量に委ねることを許容した規定と読むことができる、としている 。

4)248条は、「損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるとき」、「口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づき」相当な損害額を認定することができるとしている。①損害の性質上の問題。証明が困難であることを裁判所は少なくとも疎明しなければならない。しかし、このことは、本問の質問事項ではないので、省略する。②相当な損害額を認定するには、弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づくことが必要である。口頭弁論の中のどの部分が、損害額の認定に係るかということについて、あるいは証拠調べのいかなる部分の結果が損害額の認定に影響しているかについて、裁判所はなんらの釈明をようさないであろうか。私見は肯定的(釈明が必要)に考える。そもそも損害額が、穀物の通常流通価格(これが算出できなければ、A社の平均売価など)とB社への売却額との差額を上回る賠償額を認定するには、それなりの釈明が必要であろうし、これを下回る場合には、それを下方修正する要因を示す必要があろう。 

判決効の客観的範囲と上訴の利益 unit15 
Q1
1)既判力とは、訴訟物に関する確定判決の判断に対して生ずる通用力ないし拘束力のことをいう(伊藤470)。前訴において、Xは所有権に基づく建物退去土地明渡、および平成15年12月以降の賃料相当損害金を請求し、裁判所も建物退去土地明渡は認容、賃料相当損害金については平成16年10月以降についてこれを認め、この判決は確定している。
「土地明渡しを求める再訴がなされた」とは、Xによる再訴であると解されるが、既判力の基準時移行に法律関係に変動がなければ、Xは所有権に基づく土地明渡を求めているものと解されるから、確定判決の判断は、再訴裁判所を拘束するから、前訴判決と異なる判断はできない。なお、Yが土地明渡を求めた場合も、前訴の訴訟物に関する判断と矛盾する判断は許されないから、同様となる。債権的請求をした場合はいかがか、という問題があるが、前訴判決でXに所有権があることが認められているので、それを前提に、たとえば債権的権利の取得の経緯などを争うことはできるが、この前提部分に反する主張はできない(もちろん既判力には時的限界がある)。
2)@前訴では、所有権に基づく建物退去土地明渡を求めた、とあるが、請求の趣旨において所有権確認の訴えもなされたとも、中間確認において所有権の確認がなされたとも記載がない。そこで、確定判決は主文に包含するものに限り既判力を有する(114条)との関係で、所有権は訴訟物を構成するか、所有権の帰属に関する裁判所の判断は既判力を生じさせるか、ということが問題となる。114条が、既判力の範囲を限定したのは、「大前提たる法規の解釈、適用は勿論、小前提たる法律事実に関する認定、その他一切の間接判断中に包含されるに止まるものは、たといそれが法律関係の存否に関するものであっても同条(114条)2項のような特別の規定ある場合を除き既判力を有するものではない」(最判昭和30.12.1資料1)とあり、結局、それは原告の請求の趣旨(黙示的表示でも足りる)において明確にすべきであるとされる。
そこで、本件のように所有権を前提に建物退去土地明渡を求めた場合に、所有権の帰属に関する裁判所の判断は請求の趣旨に黙示的に表示されていると解することができるか、が問題となる。前記判決はしかし、その傍論の中で物上請求権の場合には、所有権に関する判断は既判力を生じるとしており、私見もこれに賛成するものである。
@それでは、土地建物の所有権移転登記手続請求はどうであろうか?
 所有権移転登記請求権は、債権的に発生するものと、物権的に(所有権の基づく)発生するものがある。債権的に発生するとは、売買などにより所有権移転請求権が発生した場合であり、物件的請求の場合は、自身が所有権者であることを所有権の取得原因などから証明していくこと(承継取得ないし原始取得)があるので必ずしも訴訟物が一致するとは限らない。本件では、前訴が所有権に基づく建物退去土地明渡し、後訴が所有権移転登記請求権であるから、それが債権的なものであれば訴訟物は一致しない。
3)請求異議の訴えは、基準時以降の事象に関して争うものであるから、請求異議の前提となっている前訴判決とは別に、後訴判決が売買の解除は無効と判断したことが請求異議の訴えに対して既判力を有するかという問題である。ここでも訴訟物と基準時を基準に考えればよい。結論からすれば、売買の解除は無効との主張を請求異議の訴えにおいてすることは、問題となっている判決の基準時以降の事象でなければ許されないと解すべきである。けだし、これを許せば、後訴が前訴により遮断されないという既判力の問題を蒸し返すことになり適当でないからである。もちろんかように構成すると請求異議の訴えで遮断される判断の範囲(いわゆる既判力)が、通常の既判力の範囲よりも広くなってしまって整合性を欠くことにならないか、という問題が生ずる。しかし、判例の既判力の解釈が狭すぎて、現実的でないことに鑑みると、請求異議においては、これを緩和することも認めてよいのではないか。
4)訴訟物たる権利の存在自体を否定するのではなく、期限未到来で請求が棄却された場合には、既判力の客観的範囲は、判決理由中の判断を考慮して決定される。期限未到来の場合、主文に包含される判断は、請求権自体の不存在ではなく、請求権の消極的属性として、基準時において期限未到来のため請求をなしうる法的地位がない、というものである(伊藤487)。それゆえ、Xは改めて基準事後などの期限の到来などを主張して、再訴をなすことができる。解除の場合も、猶予期間の経過などを主張して訴えを提起することはできる。

Q2
1)いわゆる争点効の問題である。争点効とは、確定判決の理由中で判断された事項について、一方の当事者に、すでに前訴で決着がついたものとの正当な信頼が生じ、法の規範的要求として、その事項につき再度の応訴・弁論を強制し得ないと認められるときは、その理由中の判断に拘束力を認め、これに抵触する攻撃防御方法を提出しえないとすべきである、との前訴判決の拘束力のことをいう。本件では解除の攻撃防御がこれにあたる。
 争点効の根拠は信頼関係の保護という手続上の信義則にある。しかし、判例は争点効の法理を認めていない。
2)遮断効の問題である。既判力は、訴訟物についての前訴判決の判断の通用力である。解除の主張が訴訟物を構成していなければ既判力の射程には入らず、また、解除についてYが争っていなかったとき、争点効の射程にも入らないが、Yが後訴で解除の主張をすることは、解除については争わないとの相手方の期待を裏切る(決着期待型争点)ことになり、信義則違反になるのではないか、という問題である。
3)解除は有効との判決理由中の判断について、これを後訴で解除は無効であると主張できるかという問題である。争点効の問題であり、争点効理論を認容する立場からは、当然に遮断効が働く。Yが前訴において上訴しており、判決が確定していないとき、重複起訴の基準たる訴訟物に解除は含まれないから、遮断効ないし既判力は確定判決における訴訟物に関する裁判所の判断の通用力であり、確定していない判決において、これをもって解除の主張を認めないとすることはできないこととなる。
Q3
1)上訴の利益の判断基準には形式的不服説が通説・判例である。そこでは、上訴により原判決よりも有利(利益あるもの)に変更する可能性があるか否かの判定基準を上訴の趣旨と原判決の主文との比較で決しようとするものである。しかし、最近は新実体的不服説が有力に主張されてきている。新実体的不服説は、不服の有無を判決の効力により決定し、原判決を取消しておかないと判決効が不利に作用してくる場合にのみ上訴の利益を肯定するというものであり、全部認容判決では、訴えの変更や反訴の提起のための上訴はできないが(別訴によるべきである)、既判力その他の判決効により別訴ができなくなる場合には、
全部勝訴の当事者もまた上訴の利益を認めるべきであるとする。
 これを本件についてみてみると、Yは、土地建物の所有権が自己にあることの確認および、当該土地建物の移転登記請求およびCが交付した100万円の不当利得返還請求をしており、不当利得返還請求についてXの相殺の抗弁が認められて請求が棄却されたというものである。Xがこの判決に不服を主張するのは、相殺の抗弁ではなく、そもそも不当利得はなかったものとの判断を示されないと、別訴において、自動債権として供した債権の行使が困難となると考えたからである。相殺の抗弁を予備的に提出したのでなく(予備的であれば、不服の利益は当然認められる)、そのまま抗弁として提出した場合、相殺の判断は既判力を生ずるため(114条2項)、別訴ができなくなるからである。それゆえ、形式的不服説では、判決がXに有利に変更する可能性は否定されるが(もっとも相殺の抗弁はあくまで判決理由中の判断であり、これに既判力を認めたのは、別訴において自動債権の行使に制限をかけるためであって、上訴において、相殺の抗弁の撤回を認めないとするものではない、と解するならば、形式的不服説でも上訴の利益は認められるが)を否定新実体的不服説では控訴が認められるべきこととなる。
2)自白は、判決理由中の判断であるから、既判力を生じないので、これを控訴で撤回できる可能性はある。そうすると、相殺の抗弁のみ主張していた被告が、相殺を理由に勝訴した場合、改めて不当利得返還請求そのものについて、これを否定する判決を求めて控訴することはできるであろうか?新実体不服説によれば、相殺の主張を撤回し、自白もまた撤回することで、別訴において自動債権の行使が出来なくなることを回避することができる、と構成することができるであろうか。自白に関する判断は訴訟物を構成しないので、別訴においては自白せずに、自動債権の行使を求めることは、しかし相殺が既判力を有する以上できないと考えるべきであり、それゆえ、新実体説では、自白による場合も控訴できると考えることになる。これに対して形式的不服説では、控訴における自白の撤回による判決の変更は、相殺が予備的になされていない以上、不可能である。(もっとも先に述べたように、相殺の抗弁はあくまで判決理由中の判断であり、これに既判力を認めたのは、別訴において自動債権の行使に制限をかけるためであって、上訴において、相殺の抗弁の撤回を認めないとするものではない、と解するならば、形式的不服説でも上訴の利益は認められる)
3)差戻しをうけると、差戻審裁判所は、控訴審裁判所が原判決を取消した理由となった法律上および事実上の判断に拘束される(裁判所法4条:上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する)から、原判決取消しの判決に不服のある控訴人は、この判決に対して上告する利益を有する(資料9)。問題は、Xの不服理由が相殺権の不存在であるときも、不服の利益が認められるかである。けだし、原判決を取消した理由が、相殺権の存在を認めつつ、その行使に濫用がないかどうか、さらに判断を尽くすというものだからである。しかし、この取消し理由は、相殺権そもののは有効に存在すると認定しているので、この認定が下級審裁判所を拘束するとなれば、それは不服の対象となろう。そうすると上級審のした相殺権そのものの認定までもが下級審裁判所を拘束するのか、それとも、取消しの理由となったのは、相殺権の濫用の有無であって、相殺権そのものの存否の認定までも含むものではない、と解する余地もある。しかし、相殺権の濫用は相殺権の存在を前提としている以上、かような解釈は技巧的であり、法的安定性の要請にそぐわない。それゆえ、Xは上告の利益を有すると解すべきである。
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by civillawschool | 2006-07-06 12:17
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