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大学院民訴レジュメ

8日目 第15講 第16講

(8日目)場合によっては第16講、第15講の順でするので注意してください
第15 講 自由心証主義とその限界
講義の主題・ポイント:自由心証主義とその限界、証拠およびその評価、専門委員制度
キーワード:自由心証主義、証拠の優越、高度の蓋然性、優越的蓋然性
判例百選 65
参考文献:伊藤眞「証明、証明度および証明責任」法学教室2001.11.№254 p33-配布予定なし
同「訟明度をめぐる諸問題―――手続的正義と実体的真実の調和を求めて」判例タイムズNo1098 p4- 配布予定
  
講義内容
15-1-1 証拠概念
     事実の認定(当事者間で争いのある事実)は顕著な事実@を除くほか、証拠によって認定されなければならない。
      @顕著な事実には公知の事実と裁判所が職務上知りえた事実がある
     証拠とは、認定の対象となる事実についての、裁判所の判断資料のことをいう。
     証拠(方法)は証人、鑑定証人、当事者本人、文書、検証物に分けられる。

15.1.2 証明と疎明
裁判官が抱く心証度は、証明と疎明では異なる。
証明にあっては、高度の蓋然性を基準としている。
百選判例 65 訴訟上の証明――ルンバール事件――
Issue(事件の概要):原告はルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)の施術を受けたところ、15分ないし20分後突然嘔吐、けいれんの発作などを起こし、右半身けいれん性不全麻痺、性格障害、知能障害および運動障害を生じ、後遺症として知能障害、運動障害などを残した。
 問題はルンバールの施術と障害の因果関係であった。
Rule(法):証明における証明度(心証)をいかなるものとして捉えるかについては、少なくとも科学的因果関係の証明については、判例はこの事件を契機に確定したといってよい。事実に関する高度の蓋然性とは、結局のところ「通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる。」
Analysis(分析):証明度はその要求を高度にすればするほど証明が困難となり、被害者が救済されないばかりか、社会的正義が実現されないことになる。しかし、だからといって証明のハードルを低くすれば、裁判所の認定作業に対する社会の信頼は失墜するかもしれない。被告と原告の主張を比較して、その優劣で決する(証拠の優越のルール)という主張が近年有力に主張されてきている。これに対して従来の通説は厳密な証明(合理人が疑いを差し挟む余地のない証明)を要求しており、本判決はいわばその中間点をとったものと評価されている。少なくとも科学的因果関係の証明にあっては、100%の証明は現実的ではなく、その意味では妥当な解決であったと評価されよう。

裁判において証拠調べに費やすことができる期日も経費にも限りがある以上、万人が疑いを差し挟む余地のないほどの証明を要求することは現実的ではないばかりか、むしろ事実認定がされないことで、通常人の裁判に対する信頼を危うくすることにもなりかねない。
通常人が疑いを差し挟む余地のないほどの高度の蓋然性を要求することは理にかなっている。
 最近、この問題(証明度)について伊藤眞教授は証明度に関して証拠の優越の法理(優越的蓋然性)を採用したといわれているので要注意:詳しくは配布資料参照
 伊藤教授が、証拠の優越ないし優越的蓋然性の法理を支持する根拠としては、それが現実(的)であるという点に論拠が求められている。むしろ高度の蓋然性の基準は神話にすぎない、としてそれが基準としてはもはや機能していない、ということを指摘している。

15-1-3 疎明
   保全のための一応の処分や、手続上の事項に関する裁判では、証明まで求めていたのでは、迅速に手続が進行しない懼れがある。この場合、相当程度の蓋然性があればよし、としたのが疎明概念。疎明は即時に取り調べうる(在廷する証人や当事者が現に所持する文書を調べ)。

15-1-4 厳格な証明と自由な証明
   厳格な証明:定められた方式に従って証明を厳格な証明という。それは当事者から証拠の申出がなされ、その採否をまず裁判所が決定し、採用された場合には、両当事者対席の下、公開の法定で所定の方式にしたがって取調べが行われるという原則のことをいう。訴訟物(権利義務)関係について、判断の基礎となる主要事実ないしこれに密接に関連する事実の証明は厳格な証明の方式によらなければならない。
   自由な証明:厳格な証明方式が要求されない場合をさす。職権調査事項たる訴訟要件に関わる事実、経験則がこれにあたり、また決定によって決せられる事項に関わる証明にはこの方式でよいとされる。しかし、訴訟要件、任意的口頭弁論の方式による決定であっても自由な証明の方式でよいとされる根拠はないと批判されている。そこで証人尋問の順序を決定(202Ⅱ)したり、証人尋問と当事者尋問の先後(207Ⅱ)や文書の成立(228Ⅰ)などには自由な証明の方式が認められるにすぎないことになる。
 
15-2-1 専門委員制度
専門性の高い訴訟、たとえば医療過誤訴訟、知的財産権関係訴訟、建築関係訴訟などでは、その審判には専門的知見を備えていることが前提とされる場合が多い。
  専門的知見は裁判所調査官および鑑定人がある。しかし裁判所常勤の調査官の能力にはおのずと限界がある。鑑定は、釈明処分としてなされる場合(151Ⅰ)を除いては証拠調べの方法であるから、審理のすべての場面で提供するものではない。専門委員の関与については、当事者の意見を聴き、場合によっては同意を求め、専門委員の意見は当事者に開示され、それに対して当事者が意見を述べ、証拠調べの実施を求める機会を保障している。
  専門委員は、争点整理において、争点を明確にし、証拠調べの結果を明瞭にし、和解にも関与する。専門委員は非常勤の裁判所職員であり、裁判官の除斥、忌避に関する規定が準用される(92の6、民訴規34の9)。

後半
第16講 訴訟の審理
講義の主題・ポイント:証明責任、証拠の収集・保全 文書提出命令、模索的証明、不要証事実
キーワード:証明責任の分配、証拠の収集、証拠の保全、文書提出命令、模索的証明、経験則、自白、自白の撤回
判例百選 74,76,82 

16-1-1証明責任の分配
  要件事実論的考え方によれば、要件事実に直接該当する事実(主要事実)または、その事実の存在を推認させる事実(間接事実)を積み上げることで、必要な法律効果の発生が認められ、あるいはこれに失敗すれば認められず、おのずと結論に至ることになる。 
 証明責任とは、訴訟の審理の最終段階にいたってもなお真偽が不明のとき、その結果として、裁判において問題となっている事実に存否によって法律効果の発生または不発生により当事者が被る不利益のことをいう。
   証明責任は証明責任の分配法則に従って各当事者に振り分けられる。
   
証明度とは、どの程度の確信を裁判官に抱かせれば、事実があったもの、あるいはなかったものとして扱うのかの基準(度合い)をいう。
 要求される証明度が低ければ(たとえば50.1%)、事実上証明責任の分配は意味をなさない。  
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私法上の責任概念とは、不履行の結果生ずる「おとしまえ」のことである。不法       行為責任は不法行為によって発生する「おとしまえ(この場合は損害賠償)」のことをいい、証明責任では証明の義務を負うものがこれを尽くせなかった場合の「おとしまえ(この場合はかかる事実がなかったものとして扱われることをいう。)
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16-1-2法律要件分類説
  権利根拠規定、権利消滅規定、権利障害規定に分類し、それぞれ権利を主張する者、権利を否認する者、法律効果の発生を争う者が証明責任を負うとする説  
16-1-3模索的証明
  実際の事件では、争点はもちろんのこと、事故原因すらわかっていない場合や、金銭消費貸借支払い請求事件であっても、相手方の出方(契約そものの成立を否定するのか、弁済の抗弁を提出してくるのかで)原告となるものの立証計画は大きく異なることになる。
このため、訴え提起前の証拠収集活動が重要になってくる。   
16-2-1 証拠の収集
 訴え提起前の証拠収集活動
  情報偏在型訴訟に限らず、訴訟のための証拠収集手続がわが国でも脚光をあびるようになった。コモンロー諸国では、ディスカバリーやディスクロージャーの制度があり、他方ドイツなど大陸法諸国には協同主義の下、裁判所の釈明的処分権能で証拠収集が行われるのに対して、これまでの日本の証拠収集規定は証拠保全を除いてはみるべきものがなかった。
予告通知者等照会制度:提起しようとする者は、132条の2第1項本文により、訴えに係る請求の要旨および紛争の要点などを記載した書面を被告となるべき者に送付することによってはじまる。これにより訴訟継続に準ずる状態が発生し、訴え提起に必要な事実資料を収集する権能が認められる。予告を受けた被予告者も答弁の要旨を記載した書面を送付することで同様の権能が認められる。
権能:(ⅰ)訴え提起前の照会=予告通知者は通知をした日から4ヶ月以内に限り、訴えを提起した場合の主張または立証を準備するために必要であることが明らかな事項について、相当な期間を定めて、書面で回答するように、相手方に対して書面で照会する権能で、訴え提起後の当事者照会(163)に対応するものである。ただし、以下の場合はできない。@

当事者照会が許されない場合(163、132の2但し書き①)に該当するとき、ただし相手方、または第三者の同意があるときは別。
(ⅱ)裁判所に対する証拠収集処分の申し立て=立証に必要なことが明らかな証拠となるべきもので当事者自身では収集が困難なもの(132の4Ⅰ本文)裁判所は相手方の意見を聞いて決定する。具体的には文書の送付嘱託(132の4Ⅰ①)、調査の嘱託(同②)専門的知見にもとづく意見陳述の嘱託(③)執行官による現況調査(④)である。
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@ 具体的でない、相手方を侮辱し、困惑させる、すでにした照会と重複する、意見を求める、回答に不相当な費用、時間を要する、証言拒絶に該当する場合である
@ 私生活の秘密や、相手方ないし第三者の社会生活を営むのに支障を生ずるおそれがある、相手方または第三者の営業秘密に関する照会はできない
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その他、個別の論点については、百選判例参照

百選判例 74 証明責任の転換――証明妨害
Issue(事件の概要):Xが保険会社Yに対して訴外AがXの自動車を使用中に起こした事故の車両保険金の支払いを求めて本訴を提起した。これに対してYはXが分割保険料の不払いがあり、支払う義務はないと主張した。
 これに対してXは事故当日の夕刻(事故は深夜に起こっている)未払い保険料の支払いは済ませていると主張、ただ代理店が領収書に期日を入れなかったのであり、保険金支払いを拒絶することは信義則に反すると主張した。領収書に日付を入れないことは、証明妨害にあたるであろうか?証明妨害は証明責任を転換するかが争われた。
Rule(法): 証明責任の転換とは、分配された証明責任とは逆の(反対の)相手方に証明責任を負わせることをいい、法律の規定や特別の場合に認められる。証明妨害とは、相手方が証明責任を負っている場合に、その相手方に有利となる証拠を破棄・隠匿などすることで証明を困難にする行為をいう。証明妨害があったとき、証明責任を転換するかどうかには、見解が対立している。訴訟上の信義則から①事実があったと犠牲するか、②証明妨害の程度に応じて、事実があったと犠牲するか、③挙証義務者の証明度を軽減するか、④証明責任を転換する、などが主張されている。
Analysis(分析):証明責任の転換を含めたこれらの主張は、信義則違反に対するサンクションなのか、それとも、事実の推定なのかについても見解が分かれているが、故意、過失で証明を妨害したとき、経験則からして、かかる事実があったと推定でき、あるいは証明を軽減すると解すべきであろう。訴訟上のサンクションという考え方はわが国にはなく、また訴訟を真実の発見と正義の実現のためであると考えるとき、事実の犠牲と捉えることは適当でなく、証明妨害から推定される事実が何かを考えるべきであろう。
Conclusion(結論):判決に賛成(ちなみにこの事件については控訴され東京高裁がすでに判決を出している:東京高判平3.1.30判時1381.49)



               
百選判例 76 証言拒絶事由(1)---技術または職業の秘密 
Issue(事件の概要):Xは電話機器類を購入し利用していたが、たびたび通話不能になるなどと主張してY(NTT)に対して不法行為に基づく損害賠償を請求した。
 この控訴審においてXは、Yとその取次店との取次店契約書(①)(これはYが売主であることを証明するため)、本件機器の瑕疵などを立証するためであるとして、本件機器の回路図および、信号流れ図(②)の文書提出命令の申立てをした。 
 原審は文書①は、証拠調べの必要を欠く、文書②は製造したメーカーのノウハウなどの技術上の情報が含まれているから民事訴訟法220条4号ロ(現行法はハ)に該当する、またもっぱら所持者の利用に供するための文書(現行法220条ニ)にも該当するとして申立てを却下した。X抗告
Rule(法):民事訴訟法197条1項3号は技術または職業の秘密に関する事項は、証言を拒むことができる旨が規定されている。公開によって当該技術を基礎とする利潤追求活動やその他の社会活動が不可能または困難になるものは、保護しようという趣旨である。民事訴訟法202条2号ハも197条1項3号などの文書については文書提出義務の対象からはずしている。問題は、こうした文書提出義務の除外に該当することをどの程度証明したら、こうした保護を受けることができるか、その要件事実をめぐる解釈である。
 技術上の情報(技術または職業上の秘密に関する事項をいかこのように省略する)が含まれている事実を詳細に要求すると、技術上の情報などを開示することになり、立法の趣旨にそぐわないのではないか、という主張も一方にはあり、他方、技術上の情報であることの立証なくして保護を求めることはできない、という主張がある。
Analysis(分析):情報の種類、性質、開示されることによる不利益を具体的に主張する必要はあるし、かかる主張を要求したところで秘密そのものの開示にはならないから、開示者の不利益にはならないであろう、という中間的立場があり、それが適当であると考える。 
Conclusion(結論):最高裁決定に賛成

百選判例 82 診療録の証拠保全の要件
Issue(事件の概要):Xが精神不安定のためにY経営の精神病院に入院したところ、以前から痙攣発作を起こすことがあり、他の病院で治療を受けてはいたが、入院後2週間ほどで面会したところ、歩行ができず、言葉もほとんどわからない状態となっていた。副医院長にXの治療法や病状悪化の理由について再三問い合わせたが、詳しい状況を説明せず、逆に家族を叱りつけた。看護婦も「早く連れて帰ってよい病院へいれてあげてください」といった。しかし、退院も許可されなかったが、帰宅が許可されたときに、そのまま退院手続をした。退院後訴外病院でCT検査の結果、著名な小脳萎縮がみられ、精神安定剤、抗てんかん剤の多量使用の副作用が歩行困難、発語障害の原因と診断された。
 そこで、原告は損害賠償の準備にかかり、診療録などの証拠保全を申し立てたが認められず(「証拠の破棄、改竄、偽造などの恐れありと認めるにたる客観的事実の主張・疎明」がない)、疎明資料を追加した再度の申立ても却下されたため、X抗告。
Rule(法):証拠保全にはその事由の疎明が必要であるが、具体的にはどの程度の疎明が必要かについては見解が対立している。証拠保全は、本来は証拠調べまで待っていたのでは、証拠の利用が不可能または困難になるおそれがあるとき、当該訴訟手続の外で証拠調べを行い、その結果を確保しておくことをいう(234条以下)。しかし、現代型訴訟と呼ばれる、医療過誤、公害訴訟、薬害、製造物責任訴訟などにおいては、相手方に対する証拠開示の目的で相手方が保有する証拠を予め開示させる手段として使われている。そこで証拠保全を本来の証拠の改ざんの恐れなどに限定すべきかどうかで見解が分かれているわけである。証拠保全の制度を証拠開示として利用することを正面から認める見解は疎明の必要性を強調することに否定的である。
Analysis(分析):法規(234条)は疎明を要件としているので、問題はその解釈である。疎明は証明と比べ、厳密な証明を必要としない。そこで自己に不利益な証拠はすべて改ざんの恐れがあるとして、証拠保全における疎明理由となるであろうか?決定は、それでは不十分であるとしている。しかし、十分な説明をしない、矛盾した説明、責任回避的態度などで足りるとしているので、事実上証拠開示的機能は守られているといってよいであろう。
Conclusion(結論):最高裁の決定に賛成
  
by civillawschool | 2006-01-04 00:32
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解答例

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